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□あおたま怪談 0032

『子供の絵』



 相談をしてきたのは、私の古くからの親友であり、幼馴染であり、そして一時期は恋人関係でもあったAだった。彼女とは恋人関係を清算した後も良き友人として付き合いがあり、互いに家庭を持った今でも地元で会えば近況を離したりもするし、私の今の妻も、彼女の今の夫も――その2名を含めた全員が昔からの知り合いということもあるが――それについて別に何か意見するわけでもない。一切の邪な感情もなく、昔からの親友同士として良い関係を築いているわけだが、そんな彼女が何やら、ここ最近は非常に気持ちが悪い思いをしているというのだった。
 相談には彼女と、その夫であり私の中学時代の級友――といってもそれほど仲が良かったわけではなく同じ部活動に所属していた程度の関係であるが――、そしてその息子も一緒にやってきた。まだ小学校に上がらない程度の無邪気なその息子が描いたという絵がどうにも奇妙で、それが不気味で仕方ないのだという。私は、彼が描いたという絵を数枚見せてもらった。
 別段、何か変わったことがあるわけではない。小学校に上がる前の子供としてはまあまあ上出来か、という程度の、実に子供らしい絵である。色もふんだんに使われているし、モチーフも特におかしなところは見受けられない。家族の絵、飼っている猫の絵、食べ物の絵、実に子供らしくほほえましい絵の数々である。
 ただ確かに、違和感はあった。どれも十分に上手く描けているのだが、それらの絵全てに、共通するものが描かれているのだ。それは、文字というにも記号というにも微妙なものだった。それが、紙の端に3文字ばかり、どれも全く同じ書体で書かれているのがある。
 これは何なのかと問うと、彼は決まって「わからない」と答えるのだという。しかし、どんな絵を描いても、必ずそのよくわからない文字列を、まったく同じ書体で書き始めるのだという。それだけなら何かの影響でも受けたのかと思うが、そうではなく、それまではニコニコと笑顔で絵を描いていても、この特定の文字列を書き込むときだけ、彼の瞳からは光が消え、ただひたすらに無表情なのだという。それがたまらなく不気味で、親としてはお絵かきが好きな彼から絵を取り上げるのも嫌だが、この不気味な文字列が何を意味するのかを理解できないことがたまらなく怖いのだという。
 そうして、私のもとに相談に来たわけである。私は世界各地の言語について大学で研究していたこともあり、仕事で複数の言語も操るから適任だと思われたわけであった。しかし、私の答えもまた「わからない」でしかなかった。確かに、その文字列はヘブライ文字に似てはいるが、ヘブライ文字にその形はない。手元にある資料からヒンディー、クメール、アラビア、アムハラ……、とにかく色々な言語で使われている文字をどれだけ調べても、一致する形は無いのである。ゆえにこの3文字――3文字かどうかも正直わからないが――の表す意味は、私の知る限りの知識や豊富な蔵書をかき集めても、その意味を解読することはできなかったのである。
 試しに一枚紙を渡して「好きなものを書いてみなさい」と言うと、彼は嬉しそうに鳥か何かの絵を描き始める。そうしてしばらく待っていると、だんだんと絵は完成形に近づいていって、最後に彼はその鳥らしきものの瞳をくっきりと塗り、おそらくそこで絵は完成した。と、そこで急に彼から笑顔が消え、まるで何か、恐ろしいものを崇拝しているかのような目つきで紙をじっと見据え、そして、誰も理解することのできない謎の3文字を、丁寧に書き始めたのである。
 お手上げだった。彼に何か起きている気はするのだが、最早私ではどうにもならない。どちらかというと、これはオカルト分野の話であるような気がしたので、お祓いに行くことを勧め、何も力になれなかったことを詫びて、その日はそれで終わった。書いてもらった絵は手元に残しておき、何かヒントが掴めることがないか、それからずっと考えていた。

 その答えがわかったのは、それから数ヶ月後、別の友人のオカルト研究家と話しているときのことだった。数年前、我々が住む町の近くに小さな隕石が落下して話題となったことがあるのだが、最近になって彼が所属するオカルト団体――といっては何か怒られそうではあるが到底学術的な団体には見えない――が、その痕跡付近を調査していたのだという。その周辺に地球のものではないと考えられるアクセサリーが落ちていたのだという。最初そういった話を持ってきたときは、そんなもの作り話か、あるいはたまたまもとからあったものをそう主張しているだけだとしか考えられなかったし、大体の未確認生物やオーパーツの発見情報なんてそんなものだ。しかし、今回ばかりはそれを信じずにはいられなかった。そしてそれと同時に、私は恐ろしくてたまらなくなった。
 それというのも、その指輪のようなアクセサリーには3つの文字が刻まれていて、それが先日の子供が描いた絵に描かれた文字と全く一致していたこと、そしてもう一つは、その隕石が落ちた時期が、彼が生まれる十ヶ月前であるということだ。



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