garasumire 
トップページ
▲トップページ
このサイトについて
▲沿革、概要
プロフィール
▲みずちあきらについて
配布物
▲BGM、モデル等配布
最近の活動・更新
▲最近の活動・更新
外部リンク
▲外部リンク
その他のコンテンツ
▲その他のコンテンツ

あおたまごちゃんねる
▲YouTubeチャンネル
※超不定期更新

TOP
□あおたま怪談 0038

『留守番』



 怖い話ですか。……本当に怖いっていうか、今思い出してもゾッとするような話が一つだけあるんですけど、まあ、皆さんにとって怖いかは、話の内容的にも、私の話術的にもちょっと自信ないです。……それじゃ、始めますね。これは今からずっと昔、私が小学校の4年生くらいだったころのお話です。

 私の家はそれほど裕福ではなくて……というか、どちらかと言えば貧乏だったので、父も母も朝から晩まで働き詰めで、そのころの私は鍵を持たされて一人で家に帰る、いわゆる鍵っ子というものでした。今となってはその言葉もまた死語なのかもしれませんが、私が子供の頃はまだそういった家庭が目立つような時代でもなかったので、少し周りとは違う家庭環境だった私は、その違いに多少のコンプレックスを抱きながらも、子供ながらに両親の苦労を察し、自発的に家事とかを手伝うような子供でした。
 その時代はそれこそ、夏休みともなると丸一日私だけだったので、友達と外で遊んだりすることも多かったですが、お昼時はみんなお昼ごはんを食べに家に戻ってしまうので、私は預けられた鍵を使って家に帰り、母親が作り置いてくれたお弁当を食べて、そうして午後にはみんなと再集合して遊ぶような、そんな日々を過ごしていました。誰かの家にあそびに行く、ということは私はあまりせず、当然親がいなかったので私の家にという話になってもお母さんも家にいないから、と断っていました。
 とはいえ毎日誰かと遊ぶというわけでもなく、朝から晩まで家で一人で留守番、という日も多かったです。そういう時は、部屋の窓を開けて扇風機をつけて、そうして宿題を真面目にこなしていました。あの頃の夏はまだ扇風機だけでも十分に涼しくて、今みたいに猛暑日なんていう概念もありませんでしたね。それで一通り済んだら、家にはゲームなんかもなかったので、部屋で本を読んだり、居間でテレビを見たりしていました。鍵っ子だった私はそのころ、そういう自由があまり認められていなかった子たちが多い中で、自由にテレビを見たり、ごろごろしたりできるその環境が羨ましがられたものでした。
 ただ、私は正直、家で一人でいるのはあまり好きではありませんでした。私の家はかなり古い平屋建ての古民家みたいな感じの家で、広さはそこまで大きいというわけではないのですが、部屋数もそれなりにあって、その頃としては珍しく私個人の部屋というものもありました。ただ冒頭にも述べた通り貧乏でしたし、家も曾祖父の代から引き継いだだけで修繕とかも適当だったので、土壁は一部が崩れて中の竹が露出していたり、障子は一部が破れてガタガタ、畳も傷んだままで放置されているような状態で、廃墟とまではいいませんけど、本当にお化け屋敷と表現されそうなほどにボロボロの家でした。だから友達を呼べる状態ではなかったっていうのもあるんですけど、そんな家で日が暮れるまで1日中一人で過ごすというのは、小学校低学年だった自分にとって、とても怖いものでした。トイレに行くのだって、今みたいに綺麗な水洗じゃなくていわゆるボットンでしたし、家の裏手は竹林になっていて、真夏でもどこか薄暗くて、夜中になると変な鳥か何かの声が聞こえることもあるような、本当に大人になった今でもまだ怖いと思うようなところだったんです。

 その日は友達もみんな旅行とか家のお出かけとかで、私は外に出ないで家の中で留守番をしていました。いつものように窓を開けて宿題をしていたら、外から「おーい」って何かを呼ぶ声が聞こえたんですよね。一瞬友達が来たのかなとも思ったのですが、その声は子供の物ではなくて、大人の、それこそお爺さんの声、という感じのものでした。それが、何かを探しているかのように、定期的に「おーい」って声を上げている感じだったんです。誰かが迷子にでもなったのかな、と自分には関係ないと思いつつそのまま宿題を続けていたんですけど、いつまでたってもその声が止まなくて、どうしたんだろう、って気になってきちゃったんです。それで、声のする方を探ってたら、どうやらその声、裏手にある竹林から聞こえてきているんです。
 竹林は台所の方から窓越しに見えるんですが、とにかく夏の昼間だって言うのに暗くて。中に仮に人がいたとしても、それを見つけることはできなかったでしょう。その暗い中から、「おーい」って声が聞こえてくるんです。それも、怖かったのがその「おーい」っていう声がどこかに向けたものが響いてくるんじゃなく、まっすぐこっちに向かってきている気がしたんです。なんていうか、誰かを探しているんじゃなくって、”明確に私に向けて声をかけている”んじゃないかっていうほどに。そっぽを向いているんじゃなく、こちらに顔をはっきりと向けて、口を大きく開いて、はっきりと私に向かって声をかけているような、そういう風な聞こえ方だったんです。
 怖くなって、台所の窓をぴしゃって閉めて、自室の方に戻りました。私の部屋は竹林がある方から一番遠いところにあって、その部屋の窓も閉めて、耳をふさいで身体を縮めて、部屋の隅っこでじっと耐えていました。なのにその呼びかけてくる声は、耳をふさいでいてもはっきりと聞こえてくるんです。それこそ、手で塞いでいるその手から直接声が聞こえてくるんじゃないかっていうくらい、その声は大きく、そしてはっきりと聞こえていました。
 それから、何分、何十分そうしていたのかは覚えてないんです。ただ怖い怖いって思いながらうずくまっていたら、ある時からぴたっと、その声が止んだんです。怖かったので聞こえなくなってからも、たぶん30分くらいずっと耳をふさいだままだったんですけど、いよいよ聞こえないなって思って、ゆっくりと目を開けて、手を離したんです。声はそれからもぴたっと止んでいて、私はほっと胸をなでおろしたんですね。
 安心したら、トイレに行きたくなって。怖い思いをしたばかりだったし、トイレ自体が怖い上に、そのトイレがあったのが、家の中で一番竹林側だったんですよ。時計を見たら、思っていたよりずっと時間が経っていて、もうすぐ母親が帰ってくるくらいの時間だったんです。そのくらいなら多分我慢できるなって思って、本でも読みながら気を紛らわせていたら、そこから3分くらいして、母親が帰ってきたんです。私は部屋を飛び出して帰ってきたばかりの母親に半泣きで事情を説明して。それでそのあと帰ってきた父親が竹林の方を懐中電灯もって見に行ってくれたらしいんですけど、人がいた形跡はなかったそうです。それから留守番が怖くなって、私は家で一人でいるのを避けるようになりました。誰かと遊びに行くときのお昼はお弁当を公園で食べたり、家で一人の時は、朝から晩まで図書館とかで過ごすようになって、家には誰かがいるとき以外いないような生活をするようになるくらい、怖かった出来事です。
 今となってはそれがなんだったのかはわかりませんし、中学に上がった時には引っ越してしまったので、あの家や竹林が今どうなっているのかもわかりません。ただ……、いまだに引っかかっていることがあるんですよね。

 私は「おーい」って「誰かに」呼ばれた、っていう話しかしてなかったんですよ。でも父も母も、「お爺さんなんてどこにもいなかったよ」って私を慰めてくれたんです。父も母も一切霊なんて信じない人だし霊感だってないと思うんですけど、なんで「お爺さん」って断言したのかが、いまだにずっと引っかかってるんですよね。



あおたま怪談に戻る
 
▲ページの上部へ

Copyright (c) 2006-2024 Akira Mizuchi All Rights Reserved.