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□あおたま怪談 0008

『コインランドリー』



 私の家の近くに、最近できたばかりのコインランドリーがある。なにやら布団や毛布でも洗える洗濯機があるらしく、それなりに繁盛している様子だった。とはいえ、我が家には洗濯機もあるし、日当たりのよいバルコニーもある。一人暮らしなので洗濯物が多くて困るということもないし、浴室乾燥もあるので雨だからといって乾かないなんていうこともない。評判なのはわからなくもないが、私にとっては全く無縁の店であった。
 とはいえ、そういった店があるのは心強いことでもあった。洗濯機も無限に使えるわけではないからいつかは壊れてしまうこともあるだろうし、毛布はともかく、布団は干すことはできても丸洗いというわけにはいかない。今のところは別に困っていないが、もし困ったとき、頼れる場所があるのはとても助かる。普段使わない自販機が災害の時に助かるような感じで、いざというときにあってくれると助かる店というのは、非常にありがたい存在だ。
 しかし、不思議なことがひとつだけあった。コインランドリーは大抵、完全な新築物件ではなく、つぶれたコンビニの跡地などにできることが多いように思われる。あるいは、元々飲食店だった場所がいつのまにかコインランドリー、なんていうパターンも普通に考えられる。しかしどういうわけかそのコインランドリーは、それなりに綺麗な一軒家を取り壊した跡地に新築で作られていたのだ。それが不思議だというのはあまりにも偏見に満ち溢れているかも知れないが、そう思わずにはいられない。なぜならそのコインランドリーのすぐ横が、元々コンビニの空き物件なのだ。そして新築で建てられたコインランドリーの建屋は、そのコンビニ跡地と大きさも形も大差ないのだ。

 そんなことが気にはなっていたが、そのうちにもうひとつの空き物件も中華料理屋になり、コインランドリーはなんでも洗えるその強みを活かしてか、いつ見ても多くの車が停まっている人気店になっていた。田舎なので元々コインランドリーが少ない上、すぐ近くにマンションもある。考えてみれば人気が出るのも当然の話であった。
 そんな中で、私は初めて、コインランドリーを使う必要性に迫られた。というのも、深夜1時になって、明日私が勤めている店の系列店に手伝いに来てほしい、というメールが来たのだ。系列店の制服は確かに持ってはいたが、そちらの規模がある程度大きくなり手伝いを頼まれることもなくなってしまったので、最後に手伝った日に持って帰ってきて、それっきりになっていたのだ。さすがにこの時間から洗濯機を回すには近所迷惑がすぎるので、私は渋々、小銭入れと制服を持ってコインランドリーへと向かった。
 24時間営業というのは本当にありがたいことで、勤務時間が大きくずれている人にとっては周りへの騒音を気にせずに洗濯できるコインランドリーの存在はかなり大きいことだろう。深夜ではあるが、店に入ると数名のお客さんがベンチに腰かけて、洗濯が終わるのをのんびりと待っていた。私はそもそもコインランドリー自体が初めてなので、使い方もいまいちわからないなりに、壁の説明書きを必死に読みつつ洗濯物を洗濯機に入れ、コインを入れた。
 他にすることもないので、仕上がりまでの時間、他のお客さんと同じようにベンチでスマホをいじる。新しい推しのグッズ販売情報や、お気に入りブランドの新着コスメ情報などを見ているうちに、待ち時間はあっという間に過ぎ、洗濯終了を告げるブザーが鳴り響く。顔を上げると、私の他にお客さんはもうひとりもいなかった。こんな時間なので無理もない、そう思いつつ洗濯機を開け、仕上がった制服を回収する。なるほど、ずいぶんと手触りもよい。洗濯自体のクオリティも家で適当に洗ったものとは違うのだなと、私は初めて知った。
 制服をバッグに入れて店を出ようとしたその時、私は違和感に気づいた。先程まではどれかしら洗濯機が稼働していたので音がなっていたし、店内にはラジオも流れていた。それが、洗濯機もすべて止まっていて無音だし、ラジオもどうやら番組が終わってしまったようで同じく無音。店内は完全な静寂に包まれていた。
 違和感はそこではない。無音のなかにかすかに、子供のすすり泣くような声が、本当にかすかに聞こえてくるのだ。当然こんな時間だ、子供などいるはずもない。近くに家があったとして、すすり泣くような声がここまで聞こえてくるはずもない。音は確かに、この建物の中で響いているのだ。
 私は逃げるように店を飛び出し、家までの道を全力で駆け抜けた。扉の鍵を閉めてチェーンをかけ、高鳴る心臓を落ち着けるようにぐっと胸を押さえる。
 もしかしてあの場所は何かいわくつきなのでは、そう思った私は、スマホを取り出して検索をかける。あのコインランドリーの店名を打ち込むと、口コミのページが表示された。そこには、「一家心中未遂で子供だけが亡くなった、そんな家の跡地に建てられた最悪の立地」と書かれていた。

 全て合点がいった。わざわざ家を潰してまでコインランドリーを建てた理由は、あのすすり泣きを洗濯機やラジオの音で上塗りするためだったのだ。書いてある口コミに信憑性はないが、私はそう確信することができた。
 私が持ってきたのは制服だけだったはずなのに、薄汚れたぬいぐるみが一緒に入っていた。そして、その持ち主である子供が、今私の目の前で、うずくまってすすり泣いているのだ。



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