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□あおたま怪談 0018

『ミニマリズム』



 物を増やすことに不快感を覚え始めたのはいつからだっただろうか。昔の私はそれこそ、たくさんのものを買って、好きなものに囲まれて生きていくのが最高だと思っていた。しかし、いろいろなものが増えて、部屋がごちゃついてきた頃、急にそれが嫌になった。ものに囲まれて生きることが嫌になって、そして同時に、それほどまで無駄なものを買ってきた自分に嫌気がさした。たくさん買い集めてきた色々なものを捨てたり売ったりして、本当に必要なものだけを手元に残した。それだけでは飽き足らず、広すぎて無駄な空間が多くなってしまった家を引き払い、より小さくシンプルなアパートにも引っ越した。数十着持っていた服も大半は処分してシンプルなものだけを残した。そうして今手元に残っているものは、本当にわずかな必要最低限の道具や衣類だけになった。
 物が多いこと自体が既に不快であったが、特に不快に感じていたのが、ぬいぐるみやキャラクターグッズ、写真集や動物柄の何かなど、何かしらの生き物を感じさせるあらゆるアイテムだ。そういったものが家にあるととにかく不快で、なんというか、見られているようなそんな感覚が不気味に感じてしまっていたのだ。ただ、たった一つ、私が幼稚園の頃から一緒にいるうさぎのぬいぐるみだけは例外で、それだけは常に一緒にいたし、多くのものを捨てた中でも、一瞬たりともそれを捨てるという思考には至らなかった。何も置いていない棚の真ん中にちょこんと座るそのぬいぐるみは、彩りなど全て失った私の部屋の中で、唯一の癒し要素であった。
 そういった極端な生活ができるのは、彼氏もおらず奔放に一人暮らしをしているからだとは理解している。もともとは物や趣味が多すぎて男が寄り付かなかった私が、今度は逆に別の誰かと交際すること自体を人生にとって不要と思ってしまっているから、このままではおそらく結婚は望めそうもない。だが、それも別に構わない。私の人生なのだから、私が生きたいように生きられればそれでよいだけの話なのだ。  
 急に人が変わったように物を持たなくなって、周りの友人たちは驚いていたが、こうして変わることもまた成長なのだと私は捉えていたし、浪費癖のあった私を心配していた友人たちもまた、極端ではあるものの一切浪費をしなくなった私の変化を喜んでくれた。物に囲まれていた時は見えなかった色々なものが見えてきて、なんだかずいぶんと、1日の時間が長くなったような気さえした。

 そんな恋愛など絶望的だと思われていた私であったが、人生イコール彼氏いない歴をついに脱却することになった。同じようにあまり物を持ちたがらない、同じ会社の一つ年上の先輩と付き合うことになったのだ。互いにミニマリストなので何かの記念だとかでも残るようなものを送ることは互いになく、互いの家も何もないので、会うときはいつもどこかのレストランや喫茶店が待ち合わせ場所で、それぞれの家に行くことはほとんどなかった。
 とはいえ、そういった嗜好の人間同士、互いの家がどういう感じなのか興味はあった。そんなわけでとある週末、お互い椅子や布団などの予備など持ち合わせていないので泊りではなかったが、少しの間、それこそちょっとお茶を飲む程度の時間だけお互いの家に行ってみようということになった。ほとんど小学校の先生の家庭訪問レベルであったが、異質だと思っていた自分の生活に近い他の誰かの生活を覗くことに、とても興味はあった。
 ほとんど掃除するところなどない何もない部屋を軽く掃除しながら待っていると、ピンポーン、と呼び鈴の音がした。インターホンを覗くと、いつも通りのシンプルな格好をした彼が笑顔を見せていた。
 私は玄関の扉を開けて、彼を招き入れる。彼はワンルームの部屋を一通り見まわして、本当に物がないんだね、と笑う。しかし、驚く素振りはなかった。聞いた話では、彼の家も大体同じ感じらしい。私はコーヒーを入れる為、キッチンに立つ。

「全部捨てさせたのに、どうしてまた余計なものを連れてきたの」

 耳元で声がした。そこから一瞬意識がなくなり、気付いた時には、私は包丁を手に取り、それを彼の胸に突き立てていた。自分の無意識の行いに茫然としながら、私は部屋の中を見渡す。棚の上に飾られたうさぎのぬいぐるみが、いつもよりも一段と楽しそうに笑っているように見えた。



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