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□あおたま怪談 0021

『村』



――ある山中にて発見されたノートのコピー――

 この村に来て、私は狂ったのかもしれない。せめて自らの意思があるうちに――或いはそう自らが認識出来ていると錯覚しているうちに――この村の理解できそうにない狂気をこのノートに綴る。これを誰かが見ているとするならば、おそらく私は狂ってしまったか、あるいは既にこの世にいない可能性もある。果たしてこの狂人の記録を手に取る者がいるかはわからない。しかし、私は記さねばならない。この村は狂っている。否、何が正しく何が異常なのか、最早誰が判断することが出来ようか。少なくともこの私は今、こうしてペンを持ち、ノートに走らせている今の時点では狂っていないと自負している。しかしそれこそが狂った証かもしれない。それを判断するのはもはや私ではなく、このノートを手に取った誰かが決めることだ。私が狂人であったのか、或いはこの村が狂っているのか、その答えは、私にはもはやわからない。
 私がこの村に来た理由は、友人を探すためである。私の幼少期からの友人である三津屋は、大学までずっと私と一緒で、卒業してから彼はこの村に越してきた。それからしばらくの間は電話や手紙のやり取りを定期的にしていたが、急にそれらは帰ってこなくなった。私は彼に借りがあった。早くに両親を亡くし、身寄りのない私は親の遺した幾許かの遺産を取り崩しながら中学高校までを生き、それが尽きた後に無理やりに時間を作って働き、極貧生活を行っていた時にも彼は私に色々なものを分けてくれたし、思うようにアルバイトに入れず電気やガスが止められた際は彼のアパートに泊めてもらうこともあった。彼なくしては、私は大学をまともに卒業することすら叶わなかったのである。卒業した後、私と彼は別の仕事に就くこととなり、ここまでの借りは必ず返すと約束した。多くの恩を返さねばならぬ。それこそ、彼の望むことを全て私がしたとして、私の借りには到底及ばぬことであった。それほどに、彼には世話になり続けた。しかしその彼が、この村に越してきてから1年と経たぬうちに、音信不通になったのである。
 そうしてこの村に来て彼が住んでいたはずの住所を訪ねても、そこにあるのは草ばかりで、建物があった痕跡はない。すれ違った村人に彼のことを尋ねたが、村の者は誰一人として彼を知らない。それは有り得ない。彼は少なくとも1年近くはこの村に居たはずであるし、この狭い村で、他所から越してきた彼のことを知らないなどということは有り得るはずもない。ならば彼は、いったいどこに行ってしまったのか。
 そうして村を彷徨ううちに、村の外れの高台にある神社に来た。神社といっても、神社とは思えぬ佇まいであった。鳥居は赤ではなく毒々しい青色に塗られ、建物は柱も壁も漆黒に塗られている。賽銭箱には見たことのない謎の字が書いてあり、その奥の拝殿の、わずかに開いた扉の中は、昼間でありながら何も見えぬ漆黒の闇が広がっている。はっきり言って、日本のどの神を祀っているとも思えない。ここにいるのは、そもそも神かどうかも知らぬ、奇怪な存在であろうと思った。
 背筋に寒気が走った。友人のことをいろいろに聞きまわった上に、この狂気を孕んだ神社に足を踏み入れたことが、この村に、ここに住まう謎の神に対する冒涜であるような気がした。辺りを見回すが、そこに村人の影は無い。ただしんと静まり返った不気味な空気が、雨上がりのぬかるんだ泥のように私の足に纏わりつき、蛇や蛞蝓のように服の隙間からぬるりと入り込んできて、私の身体を這いずり回るのだ。逃げねばならぬ。這うようにして鳥居を抜けた瞬間に、それらの感覚はすっかりと消え去り、それと同時に、先ほど出てきた鳥居の向こう側から、友人の声が聞こえた。その声に呼ばれるようにして再び鳥居をくぐろうと上半身を傾けた瞬間、先ほどと同じように、重苦しい不気味な空気が私を絡めとろうとしてきたので、再び鳥居の外へと体を引き戻す。おそらくは、この奇怪な鳥居の向こう側、あの何も見えぬ暗闇の拝殿の中に、友人は囚われているのだ。この村の、誰も触れぬ奇怪な神の怒りに彼は触れたのだ。
 鳥居の中だけではない。いつの間にか、この村の空間全ての空気が違う。村の人間が、私に気づいたのだ。しかし、私は行かねばならない。この鳥居を潜り、この向こう側で友人に会いたいのだ。ぞろぞろと遠くから、村人たちがこちらに来るのが見える。皆一様に、まるで操り人形のように、奇怪な歩き方でこちらに集まってくる。この鳥居のように青い、ペンキのようなものをその手足に纏わせて、べちゃ、べちゃと地面に鮮やかな青色を残しながら、この神社に続く道を歩いている。この村は狂っている。しかし、私は彼を見捨てて逃げるわけにはいかない。鳥居の向こうの、真っ暗な拝殿の中から、彼の声が聞こえる。私は再びこの鳥居を潜らねばならない。だからこうしてメモを残し、私はこれを置いて中に入る。奴らが来るまでの間に、可能な限り私と、友人の情報を記しておく。これを見つけた誰か、何かの参考にしてほしい。私たちが巻き込まれた、この奇怪な場所についての。

 昭和57年9月21日 恒田 貢 友人 三津屋 義則を探して〇〇村へ
 昭和56年度 〇〇大学 卒業 〇〇県〇〇市出身
 恒田 株式会社×× 〇〇課
 昭和



――行方不明者 川岸 洋二から〇〇大学 合田教授にあてたメール――

 お久しぶりです。川岸です。この間、〇〇県の〇〇っていう山にタケノコ掘りに行ってたんですけど、そこでちょっと変なノート見つけたんで送ります。確か教授は民俗学とか民間信仰とか、あとはなんか妖怪とかそういうのに詳しかったですよね。中身を読んだ感じそういうことに大いに関係ありそうなんで、教授なら興味ありそうかと思いまして。
 書いてある日付からすると何十年も前のものらしくてめちゃくちゃボロボロで、送ってる間に崩れたり破れたりしたら困るんで、とりあえずこっちでコピーだけしておいて、それも同封しときますね。取れたてのタケノコもつけたんで、ぜひご賞味ください。



――〇〇大学 合田教授から行方不明者 川岸 洋二への返信1――

 お久しぶりです、川岸君。立派なタケノコとノートありがとうございます。ノートの方ですが、私のところに届きはしましたが、何やら青いべたべたとしたペンキのようなものが大量に付着していて、それが紙をぴったりとくっつけていて開くことはできそうもありませんでした。コピーの方はそういった汚れ等見受けられませんが、拾った時点でそういったものはついていましたか? まだ本文の方には目を通していませんが、とりあえず詳細については君が同封してくれたコピーを見てそこから調べてみようかと思います。色々わかったら、また連絡します。



――〇〇大学 合田教授から行方不明者 川岸 洋二への返信2――

 川岸君。このノートを拾った場所をもう少し詳しく教えてもらえないでしょうか。記載された村の名前も、記載されていた2名が大学を卒業した記録も、まったく見つからないのです。そればかりか、君が先日のメールで言っていたタケノコを掘った山さえも、どの地図にも記載されていないのです。だとするならば、君はどこへ行ったのでしょう。返信をお待ちしています。



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