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□あおたま怪談 0027

『汚部屋』



 子供のころから、掃除がとにかく苦手だった。その上色々なものを欲しがって、ものを増やしては積み上げて、増やしては積み上げて、そうしているうちに、私の部屋は足の踏み場がないどころか、一部は天井にまで荷物が届くほどの汚部屋となり、大人になった今も、その現状は解消されていない。歩く時にも、足を置く場所を気を付けないと転んだり怪我をしたりする恐れさえある。ずっと昔から積み上げてきてしまったものであるし、私の家族も全員が掃除嫌いで、私の部屋は確かにひどい状況だが、それ以外の廊下やリビングも大した違いではない。ゆえに、私はその惨状を、今までずっと放置していた。女子力など欠片もない、本当に悲惨な、ベッド以外に動けるスペースもない部屋で、私はどうしようもない大人になってしまっていた。化粧も着替えもベッドの上で済ませて、パソコンを置く場所さえなく無理やりベッドの柱にひっかけているようなそんな部屋に、私は不便ささえも感じなくなってしまっていたのだ。
 しかし、さすがにそうも言っていられない。私ももう22になり、そろそろ一人暮らしを考えるとなった時、さすがにこのままの状態で部屋を放置していくわけにはいかない。子供のころから放置している大量の荷物の中には、おそらく思い出の品もあるだろうし、貴重な品もあるかもしれない。それ以前に、昔からいろいろと創作に明け暮れてきた私の黒歴史も眠っているかもしれない。さすがにそれをこのまま放置して家を出ていくとなると、それが発掘された時のことを考えてしまって夜もろくに眠ることが出来なくなるだろう。幸いにして引っ越しまではかなり時間的余裕があるので、私は少しずつ、部屋を片付けていくことにした。
 そうはいっても、これほどの汚部屋を綺麗にするとなれば、一筋縄ではいかない。まず、ゴミの量がとんでもないことになる。業者に持ち込むだとか、特殊清掃などをしているような業者を呼んで掃除してもらうということであればそれは簡単なのだが、私は車も免許も持っていないから持ち込むにしても無理があるし、業者を呼んで片付けてもらうほどの金銭的余裕もない。何しろこれから一人暮らしでいろいろとお金がかかるというのに、そんなつまらないことの為にお金を使っている余裕は無いのだ。それにそんなものを呼んだら、マンションの周りの住人に何を言われるかわかったものではない。だからこそ、私は普通のゴミ収集の日に、迷惑にならない程度のゴミの量で収めながら物を捨てていくことにした。
 掃除を始めてみると、確かに懐かしいものや、思い出に残っているもの、或いは色々な黒歴史も発掘されるが、それらはやはり、本当に必要なものではない。一瞬眺めて懐かしいなと思ったところで、それを未来永劫取っておこうなどと思うことはない。何しろこうして部屋に埋もれているのだから、そもそも所詮必要ないものと判断しているにすぎないのだ。次から次へと手にするもの全てをゴミ袋に詰め込んで、粗大ごみはさすがに仕方がないので別枠で置いておいて、それ以外のゴミを捨てるという作業をひたすらに繰り返していた。毎日その作業を繰り返しているはずなのに、部屋は一向に良くなる気がしない。それでも毎日それをめげずに根気強く繰り返すことで、だんだんと荷物の量は減っていき、部屋の8割ほどが綺麗になった。
 こうなってくると仕事は早くなる。片付けて綺麗になったスペースにまとめたごみを置いておき、それからすぐ、次のゴミへと取り掛かる。ゴミ出しさえ分割すればいいのだから、捨てられる状態にさえしてしまえばよい。ここまで片付ければ寝る場所の確保もできるし、大量のゴミ袋が積まれていたとしても通り道がなくなるほどではない。ラストスパートとばかりに、私はひたすらに、出てきたものをことごとくゴミ袋の中に放り込んでいく。
 あとは、ベッド付近だけだ。私のベッドは二段ベッドのように梯子で上がる構造で(もはや途中まではゴミを足場に上がっていたが)、上がベッドで下が学習机となっている。しかし、ベッドの下側にはみっちりと荷物が詰まっていて、机の上にも大量の本や荷物が乱雑に積まれているので机として使用することはできない状態だった。。あれもこれもすべてを捨てていくと、だんだんとその全貌があらわになる。小学校時代の教科書や参考書の類が、あの頃のまま机の本棚に置かれているのが見えて、とても懐かしく思えてくる。そうしてどんどん捨てていって、ついに完全に机と椅子が見えて、昔のように座ることができるまでになった。座ってみようと椅子を引いてみると、椅子の上に古新聞が置いてあった。その新聞を手に取った瞬間、私は言いようのない恐怖を覚えた。
 別に、古新聞があること自体が問題なのではない。一番問題なのは、その日付だ。このベッド付近は、中学のころにはもうゴミの中に埋もれてしまっていたし、その上には、それこそ天井近くまで大量の荷物が積まれていた。そうなれば、そこにある古新聞は少なくとも中学時代、今から十年近く前のものが出てくることになるはずだ。しかしその古新聞の日付は、わずか一週間前なのだ。私自身やうちの家族は新聞など取っていないし、そちら側に新聞を放り投げたりした覚えもない。そうなると、そもそもこの家の中に、そんな新しい新聞があること自体が奇妙なのだ。一瞬、何か物を買ったときの梱包材かとも思った。しかし、そうではない。新聞は一日分が四つに折りたたまれた状態で見つかっているのだ。だとしたら、これは一体何なのだろうか。
 私はようやく見えるようになった床に膝をつき、机の下を覗き込む。見ると、椅子の向こう側、机の奥の壁に、人が通れそうなほどの大きな穴が開いていた。確かに子供のころ、この足元のところの壁に穴をあけてしまった記憶はある。しかしそれは確か、荷物があるのに気づかないで椅子を勢いよく入れてしまって、その荷物についていた棒が壁に突き刺さり、ちょっとした小穴が開いた程度だったと記憶している。しかしその穴はそんな小さいものではなく、こちら側の壁どころか隣室まで、それこそちょっとした通路のように貫通していて、はっきりと向こう側の部屋が見える。それに、それは穴というよりも、入り口だ。明らかに工具を使って壁を切断して、この机の下の空間を、通路として工事したかのような。
 いや、待ってほしい。私の部屋の向こう側は、隣に住むちょっと変わった中年の男の人の部屋だったはずだ。そしてそこと繋がるように大きな穴が開いていて、しかも最近の新聞がある。そうして、私はここ数年の出来事を思い出す。帰宅後に不自然に崩壊していた荷物、時折不自然になくなる下着や靴下、買った記憶がないぬいぐるみや化粧品……。そういった色々な、今まで汚部屋のせいだと何も気にしていなかった小さなパズルのピースたちが、考えうる限り最悪の形で組み立てられていく。
 直後、椅子が急に倒れて、壁の穴の向こう側に吸い込まれる。そしてその向こう側から、低い声で、こう聞こえた。

「これで、やっと楽に入れるね」



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