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□あおたま怪談 0028

『荷物』



 仕事の都合で借りていた部屋を引き払うことになり、全ての荷物を段ボールの中にしまい込んだ。わずか3ヶ月間という短い時間であったが、すっかりと空になって段ボールが積まれた部屋を見ると、なんだか少しばかりは寂しさも覚えるというものだ。とはいえ、この部屋で過ごした3ヶ月間は、決して快適というわけにはいかなかった。どうやら、この部屋は事故物件なのだ。
 はっきりと何かを見た覚えはない。ただ何となく寝る前に枕元の周辺に気配を感じたり、誰もいないはずの部屋で勝手に電気が付いていたり、或いは浴室乾燥を使っていたからカラカラに乾いていたはずの風呂場がなぜか入ろうとしたときびしょ濡れだったり。とにかく不思議な出来事は多くあった。しかしそれは結局、仕事で一時的に借りている部屋だから短期間しかいないというのと、会社が金を出している物件なので文句を言うにもはばかられるというのがあり、私はそれを放置していた。別に、実害があったわけではない。ちょっと気味が悪い、というだけの話で、直接的な恐怖体験をしたり、直接的に危害を加えられたりしたわけではないのだ。
 それも、今日までの話。引っ越しに際し荷物をまとめて、後はこれらを会社の車に――引っ越し業者ではなく会社のトラックが荷物を取りに来るのだ――積み込めば終わりだ。荷物といっても、短期だからとそれほど大荷物は持ってきていないので段ボール4箱分だけだ。本当はこちらに来た時と同じ段ボール2箱で済ませる予定だったのが、こちらにいる間に色々と買い物をしすぎて二箱も増えてしまったのは、大きな誤算だった。
 ほどなくして車が来て、荷物を積み込み終わって、最後に忘れ物が無いか部屋の確認をする。常に薄暗く不気味な雰囲気が満ちていた部屋であったが、どういうわけか、今はとてもすがすがしく感じる。たった3ヶ月間とはいえ、毎日ここで過ごし、時折友人とも遊んだ部屋である。思い出がないわけではない。センチメンタルな気分に浸りつつ、何となく私はその部屋に一礼して、その場を後にした。

 トラックに同乗して、運転手である同僚といろいろと話をしているうちに、あっという間に私のアパートまで到着した。2時間という道のりはほんの一瞬に感じ、何よりも、今まで数年間過ごしてきたなじみのある部屋に戻ってこれたのが嬉しかった。私は一緒に積んであった台車に段ボール5つを載せて、それらを自分の部屋に運び込んだ。とりあえず今日のところは出勤もないので、同僚とはそこで別れ、翌週以降の出勤のために荷物を開封していくことにした。何しろ、ここを出たときよりも荷物が増えているので、まずはそれをしまう場所を作るのが先決だと、この3ヶ月で――数回掃除には戻ってきたが――積もってしまったホコリを一通り掃除して、まずはここから持っていったものを全て元の場所に収めた。そして新たに増えた箱を開封し、買ってはいたものの使っていなかった棚を組立てて、そこに配置していく。
 そうして4つ目の段ボールを開封し終わった後で、私はふと気づく。先ほど、私は台車に段ボールを5箱載せてきた。しかし確か、私が用意した段ボールは4箱だったはずではないか。
 怪訝に思いながらも、私は最後の一つの段ボールを玄関から部屋の中へと運び込む。段ボールはずっしりと重く、何が入っているのかのメモもない。もしかして、もともと車に積んであった荷物を持ってきてしまったのかもしれない。私はそう思って同僚に電話をかけてみたが、同僚曰く、空のトラックで来たから余計な段ボールなどはないはずだという。だとしたら、私の記憶違いだろうか。
 あちらに心当たりがないなら、とりあえず開封してみるほかない。私はカッターを差し込んでガムテープを切り、箱のフラップを開ける。そして私は、中身を見て凍り付いた。先ほど言った通り、段ボールはずっしりと重かったはずだ。しかし実際、この段ボールは空だったのだ。持ち上げてみても、箱そのものの重さしかない。だとしたら、この中に詰まっていたのは――?

 その直後、風呂場からシャワーの水が出る音がした。どうやら、ついてきてしまったようだ。



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