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□あおたま怪談 0029

『池』



 若い頃は色々に常識的とはとても言えない行動を誰しもするものだと思いますけどね。私自身もご多分に漏れず、若い頃にはいろいろにやんちゃしたもんでございます。酒で失敗、女で失敗、色々に失敗続きでございましたけれども、一番の失敗といえば、と聞かれたらすぐに答えられるくらい、忘れられない失敗がございます。そう、あれはまだ私が大学に入ったばかりの頃、仲間と一緒に、若気の至りってんで心霊スポットで肝試ししよう、ってなったときのお話です。
 そんときは確か、私と、あとは同じ高校から入った同級生の男が二人、それと、せっかくだからってんでそいつらの知り合いの女の子三人連れてきまして、青春っぽく肝試しでワーキャーやろうってなったんでごさいます。心霊スポットって言っても、私有地の廃墟とか、墓地とか、そういう「入っちゃいけない所」ってんじゃなく、ただの道、それこそ、普通に通勤とか通学とかで通ってもおかしくないようなどこにでもある道でございました。丁字路になっていて、真ん中の道は繁華街の方に繋がってる道、そこからの行き止まりを左に行くと山の方、右に行くと何もない田舎道っていうだけの道なんです。その丁字路の正面、行き止まりをそのまま真っすぐ行ったところには古びた池、というか、池なんだか沼なんだかただの水たまりなんだかはわかりませんが、草がボーボーに繁った先に、明かりも何もない、整備すらされてない池があったんです。そんでその池が、私達が目的としていた心霊スポットでありました。名前も何もつけられていない池ではあったんですが、そういうのを取り扱うネットの記事とかによれば、昔はここに罪人を捨ててたとか、女と子供が無理心中したとか、あるいはそもそもここは元々神様が住む池だったとか、どうにも信憑性のない話がたくさん出てくるんですね。で、じゃあなにが怖いのか、そういう記事にはあるじゃないですか。女の亡霊を見るだの、手がたくさん出てきて掴まれるだの。それがね、何もないんですよ。ただそこに「絶対に行くな」としか書かれてなくて。そういうのって興味をそそるじゃないてすか。だからそこに行くことになったんですね。
 それでその日、我々はちょうど日付が変わったくらいの時間にそこに行って、池に対して丁字路を挟んで反対側の路肩に車を停めて、男女二人一組で行くことにしたんです。割り箸割ってくじ引きして、私とペアになったのが、少し根暗な感じの、黒髪に黒縁眼鏡で、こういう、言い方は悪いですけどこういう馬鹿な連中の馬鹿な提案に乗るような感じの子ではなくて。もちろん私はその日が初対面だったんで実際どうなのか知りませんが、その子はとにかく落ち着いていて、一人だけ異彩を放ってた子でした。その子と二人で行くってなって、私は内心、ちょっと嫌だなって思ったんです。それというのも、私自身コミュニケーションを取るのがそれほど得意ではないもので、話しかけられてようやく会話が成立するようなタイプでして。それが、あまり自発的に話さないタイプの地味な感じの子と、二人で肝試し、その時点で会話は絶対に盛り上がらないだろうな、となったんです。
 ともあれそれでベアが決まって、今度は行く順番を決めまして。男三人がくじを引いて、私は一番最後の出発になりました。ルールとして、二人揃って並んで池の前で自撮りをして帰ってくる、というものでした。まず最初の二人が意気揚々と出てって、ガードレールの向こう側に消えて行きました。何しろ街灯もなく、その日はやたらと曇ってたんで月明かりもない。我々もろくに準備もせず行ったもんですから、そんな暗いなんて思ってなくて、一個だけ車に懐中電灯があって、それを持って行ったんです。その懐中電灯の光がガードレールの向こうに消えて、それから五分とか、十分とか、まあそのくらいだと思うんですけど、その間車内の我々は雑談なんかしたりして待ってたんですけどね。そうすると向こうから、チカッ、チカッと、懐中電灯の光が見えたんです。それで、あ、あいつら帰ってきたなんて言って見てたんですけど、二人が向こうから、なんか首を傾げながらとぼとぼ歩いてきたんですよ。喧嘩でもしたのかなと思ったんですけど、戻ってきた二人が車にこう戻ってきて、どうだった、なんて聞いたんですよ。そうしたら、結構色々見てみたけど、池なんてない、って言うんですよ。向こう側には草がやたらと映えた空き地があるばかりで、池らしい池なんてないし、ネットの記事で見た地図とも合わないって言って、それでしょうがないから帰ってきた、って言うんです。じゃあ場所が間違っているのかっていうと、そういうわけじゃない。間違いなくこの道の、この丁字路の、このガードレールの向こうにあるはずなんです。ネットの記事にもちゃんと写真があるし、手前の道やガードレールの感じは間違いなくて、その向こうの草むらの、草の生い茂った感じも本当に一緒で。だから、ちゃんとあるはずなんですよね。
 それで、じゃあ俺たちが、ってんでもう一組が出発しましてね。それでまた五分とか待ってたら、やっぱり同じ感じに首傾げながら帰ってきて、池はない、っていうんですね。そんなんですから、折角肝試しを楽しみに来たって言うのに、なんだか拍子抜けもいいとこで。そりゃあそうなんですよね、何が出るとかどういう風に怖いとかの情報が一切ないんですから、ただ何もない草むらに暗い環境で二人で入ってうろちょろして、何も仕掛けもないんで、びっくりするようなこともそりゃあ起きない。トンネルとかみたいなところなら往復でその空気感で怖くなる、なんてこともあるかもしれませんがね。それもないってんで、空気も悪くなって。それで、じゃあ場所を変えようか、ってなったんですが、折角だからっていうんで私ともう一人の女の子も行くことになったんです。
 その時は真夏の、八月の下旬位でしたかね。そのころはまだ今みたいに夜もとんでもなく暑いなんていう時代じゃありませんから、それなりにひんやりしていました。夜の涼しい風を浴びながら、じゃあ行こうか、っていうんで、その女の子には後ろをついてきてもらって、私は懐中電灯を持って、ガードレールの隙間から裏側に回って、草むらをかき分けながらちょっと進んだんです。
 あったんですよ、池が。それも、別に探すとかじゃなくて、生い茂った草を二メートルばかり抜けて行ったら、すぐに開けた場所に出ましてね。そこに、池は普通にありました。写真で見たときはそれほど大きく感じなかったんですが、それこそ、学校のプールって言っちゃうと大きすぎますけど、それよりちょっと小さいくらいはあるんですよ。その子と顔を見合わせて、普通にあったね、なんて言って。その子もその子で、探すまでもなくものすごい大きい池、ありましたねって。それでその池の雰囲気ってのが、別に何の不思議さもないんですよね。ただ暗いところにある池、ってだけの話で、背筋が冷たくなるような雰囲気があるとか、何か近くにそれっぽいお社とか祠とかがあるわけでもないんですね。むしろ、ちょうどそこで雲が切れて月明かりが差してきて、それに浮かび上がる池はものすごく幻想的で、心霊スポットなんていうんじゃなく、観光地かな、っていうくらい綺麗でした。ある意味では、怖いものかもしれません。暗闇の中で月明かりに浮かんで、それこそ吸い込まれるように綺麗な池なんて、逆に怖いような気もしますよね。ともあれ、あの二組が言ってたのとは違ってちゃんと池もありましたから、私とその子は二人で並んで、その池をバックに写真を撮ったんです。今みたいにスマートフォンなんてある時代じゃありませんから、それこそ百万画素とかくらいしかないザラザラの画質のカメラで、懐中電灯で自分たちを照らしながら無理やり撮ったんですけど、背景の池はさすがに映らなかったので、それとは別に池の写真を撮ったんです。懐中電灯を照らしながら、まあかろうじて池とわかるかな、くらいのひどい画質の写真でしたけど、それを撮って。それでそこから、私とその子はちょっと池を眺めた後で、まあひとことふたことぎこちない会話をして、それから、じゃあ帰ろうかってんで、車に戻ったんですね。
 車に戻って、池があったってんでみんなに写真を見せたんですけど、何しろ暗いもんで、これが池だかなんだかわからない。じゃあ確かめに行きたいってんで、今度は六人全員そろって、さっき我々が見た池の方に行ったんですよ。そうしたら、やっぱりちゃんとそこに池がある。本当に私とペアの女の子以外は誰も池を見てなかったみたいで、不思議そうな顔をしていましてね。でもまあ、さっき申し上げました通り、ただの池なんですよ。怖い感じもなければ、何か祠だとかがあるわけでもない。ただの、月に照らされた綺麗な池、っていうだけの話。なあんだ、ってんで、六人そろって車に戻って、もう遅いからってんで、そのままそれぞれの家に運転手をしてくれた子が送ってくれて、それで解散、ってなったんですね。
 何もなかった、みたいな感じのお話でしたでしょう? そんなんだったら、一発目に思い浮かぶ失敗談なんて言いませんよ。何が失敗だったかってね、この話、全部おかしなことになってるんですよ。あの黒髪黒縁眼鏡の女の子、友人が連れてきたっていう話してたじゃないですか。後で聞いたら、誰も誘ってなくて、みんな誰かが誘ったんだって思ってたらしくて。ただああいうテンションだったし、結構みんな初めましてが多かったから気にしてなかったみたいなんですけども。それだけじゃなくて、そもそもあの女の子、どんなに探しても大学にいなくてですね。それにあの池も、あとから見に行ったらやっぱり何もなくて、ただ本当に、草が生い茂っているだけだったんですよ。池を紹介していたネットの記事っていうのも、どれだけ探しても見つからなくて。一番怖いのは、携帯に保存していた二人で撮った写真。その日は確かに写っていたはずなのに、女の子なんて写ってなくて、ただ真っ赤に燃えるような赤い影が写真にかぶさっていただけなんです。

 何が後悔ってね。あの帰り道、流れで全員で連絡先を交換したんですけどね。それから数日に一回、あの女の子から写真が送られてくるんですよ。あの池に、赤いもやのようなものがかかった写真が。何度拒否しても、何度アドレスを変えても、しつこく追いかけてくるんです。私だけじゃありません。あの時の我々五人全員に、同じように池の写真が送られてくるんです。まるで、我々を呼んでいるかのように。池に来い、池に来い、って言われているような気がしましてね。
 そんな不気味なことがあったもんですから、我々五人はそれからずっと連絡を取りあう仲になりましたね。ただ、あれから十年の間に、一人突然連絡が取れなくなって、それから一人、また一人、だんだん消えていくんですよ。つい先日、最後の一人と連絡が取れなくなって、ご家族に確認したら、失踪して捜索願を出したっていう話で。

 次は、私なんでしょうね。最近になってだんだんと画像を送られる頻度も増えてきて、彼女が近づいてきている気がしてなりません。何故あの日あんなに気軽に行くことに賛成してしまったのか……、本当にあの日のことは、後悔してもしきれませんよ。ええ。
 そういえばさっきちょっと思ったんですけどもね、あの、そちらの一番後ろの席で聞いていらっしゃるお姉さん、あなた、あの時の女の子に本当にそっくりなんですよね。



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