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□あおたま怪談 0030

『消えない街灯』



 多くの場合、街灯というものは昼間のうちは消えていて、夜になって暗くなってくるとセンサーだかなんだかが起動して、暗くなってしまった道を照らすものだ。なのでやたらと暗い嵐の日なんかは昼間でも点灯していることはあるが、よく晴れた日の、日陰にもならないような場所にある街灯は、基本的に昼間は消えているのが当たり前だろう。しかし、そうでない街灯が家の近所にある。我が家から少し行った先、古い家の前に立っている少し錆びついた街灯だ。そこの街灯だけは、どういうわけかいつ見ても明かりが灯っており、夜も朝も昼も常にオレンジ色のぼんやりとした光を放ち続けているのだ。それ自体は別に、センサーの故障であるとか、何らかの意図があってそうしているだとかがあるのだと、普通はそう考えるから不思議なことではない。ただ、私は数日前に、その要因を知ってしまって、それから、怖くて仕方がないのだ。
 数日前、学校の帰り道。その日はテスト期間なので部活動はなく、友人と二人で一緒に田舎の帰り道をのんびりと談笑しながら歩いていた。そうして、例の昼間でも点きっぱなしの街灯の前を通ったとき、友人が突然「あっ」と声を上げたのだ。
「どうしたの?」
「ごめん、教科書学校に忘れてきちゃった。あとから行くから先に帰ってて」
 その日は私の家で明日のテストに向けての勉強会を開こうという事になっていた。なので別に教科書は私のを見せても良かったのだが、時間はたっぷりあるし、やはりそれぞれに教科書を持っていたほうが勉強しやすいというのもあるので、私は「それじゃあ先に帰ってるね」と行って、再び歩き始めた。その時ふと見てみると、例の街灯より少し手前、車道と歩道を隔てる縁石の上に、なにやら水色の、美しい鳥が止まっている。カワセミだろうか。田舎とはいえ別に山奥というわけでもなく、図鑑やインターネットで見たことはあったが、本物を見るのは初めてだ。私は是非写真に収めたいと思って、スマートフォンを片手に、ゆっくりと近づいていった。逃げ出さないようにある程度近づき、1メートルくらいまで近づいたところでズームしつつ、シャッターを切る。その音に驚いてカワセミはどこかに飛んでいってしまったが、おそらくはその美しい姿を収めることができただろう。そう考えつつカメラロールを見てみると、美しいカワセミの姿がそこにあった。しかし、それと同時に、写真にはひどい違和感があった。遮るものもなければ車も通っていない、当然、誰かが立っているわけでもない。しかしどういうわけか、カワセミの向こう側、例の街灯があるエリアが、やたらと暗いのだ。まるで何かそこに衝立のようなものがあって、陽の光を遮っているかのように、街灯のあたりだけが明らかに影になっているのだ。
 顔を上げて街灯の方を見てみるが、そこに影のようなものはない。まだ高い日は道路をしっかりと照らしていて、そこに一点の影もない。しかし、写真を見てみると、そこには明らかに影があるのだ。
 不思議だと思うだけでやめておけばよかったのだが、元々オカルトや心霊の類が好きな私は、好奇心に負けてしまった。私はゆっくりとあとずさり、今度はその街灯が全体的に入るように、再びカメラを起動し、スマホのシャッターボタンを押した。
 今度は、全体が写った。街灯全体が、黒い影に覆われていて、その中で、いつも通りオレンジ色の光を灯している。そして、その影の手前側に、何やら真っ黒で、身の丈数メートルはあろうかという何者かの影が、すこしうつむきがちに、街灯前の家を見下ろしているような感じで写っていたのだ。
 興味本位ではあったが、思わぬ写真が撮れてしまって、私は興奮しながら再びスマホのカメラを向け、シャッターボタンを押す。そうして画像を確認して、私は本気で後悔した。影は家の方ではなく、こちらを向いていたのだ。真っ黒の中に浮かぶぼんやりと光る赤い目を、まっすぐにこっちに向けて。

 その後はどうなったかあまり詳しく覚えていない。ただあまりの恐怖で、半狂乱になりながら学校まで逃げていって、荷物を取りに行っていた友人と合流し、半泣きで状況を説明したような気はする。覚えているのは、普段通るその道を使わずに、2本先の、やや広い別の道で帰って、それから勉強会をしたということだけだ。
 あれから数日、今のところ私自身に何かあったなどということはない。ただ、あまりの恐怖からの後悔で、二度とオカルトや心霊の類に興味は持たないと心に誓った。あの画像は直ぐに消したが、あの黒い影の赤い光る瞳の恐ろしさは、今もまぶたに焼き付いている。
 変わったことがあるとすれば2つ。まず1つ目に、あれから、あの家の前の街灯は昼間のうちは消えるようになった。そして2つ目に、今度は我が家の前の街灯が、昼間も消えなくなったということだ。



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